1. 困難な時こそ微笑む「開発のプロフェッショナル」

最初にご紹介するのは、私が20代の頃に出会った、当時勤めていた会社の商品開発主任だった先輩です。
10年後に再会した際には、開発課長になられていました。

再会当時の私は別の商社に勤務しており、大手住宅設備会社のOEM商品を請け負ったばかりでした。
しかし、非常に難しい条件がいくつも重なり、受注したはいいものの、いきなり開発が行き詰まってしまうという絶体絶命の状況に陥っていました。
自分でラフ図を描き、様々なメーカーに当たっても良い回答は得られず、途方に暮れていました。

その時、ふと思いついたのが最初の就職先の先輩だったその方でした。
まさに藁にもすがる思いで事情を打ち明けたところ、先輩は「それは面白そうだね」と楽しそうな様子で、二つ返事で引き受けてくださったのです。
そこから、私の本格的なOEM開発の道が始まりました。

共に仕事をしていく中で、先輩の凄さをまざまざと見せつけられました。
とにかくアイデアの引き出しが豊富で、Try&Error(試行錯誤)の繰り返しが最小限で済み、最短距離で目標に到達します。
基本的な開発プロセスもしっかり構築されており、誰が見ても非常に分かりやすいものでした。

優れた技術者にありがちな気難しさは一切なく、困難な壁にぶつかった場面でも、焦るどころか少し微笑みを浮かべるほどの余裕がありました。
簡単な設計はすべて後輩に任せて経験を積ませ、ご自身は高度な「機能設計」に特化するという見事なマネジメントを実践されつつ、泥臭い耐久試験にも興味津々で何時間でも現場に付き合ってくれる熱い一面も持ち合わせていました。

この方と一緒に仕事ができたことで、現在の私の「ものづくりに対する考え方」が確固たるものとして形作られました。
ちなみに、その先輩は現在独立され、ご自身のアイデアを形にする会社の社長としてご活躍されています。

flowchart LR A(["難関OEMで行き詰まり"]):::fcStart --> B["先輩へ相談:即座に快諾"]:::fcProcess --> C["最短距離で機能設計"]:::fcProcess --> D(["開発成功・思想確立"]):::fcGoal classDef fcStart fill:#0A1E3E,color:#ffffff,stroke:#1A365D,stroke-width:2px classDef fcGoal fill:#0A1E3E,color:#ffffff,stroke:#1A365D,stroke-width:2px classDef fcProcess fill:#dbeafe,color:#1e3a8a,stroke:#93c5fd,stroke-width:2px

2. 絵に描いた餅を1週間で現実にした「驚異の工場長」

2人目の方は、今から20年前、あるメーカーの工場長を務めていた方です。

当時、大手介護機器メーカー様から「お風呂周りに使える製品」の開発案件をいただき、私は他の介護機器でお世話になっていたメーカーに開発を依頼しました。
この製品開発には、2つの大きな難関がありました。

1つ目は、お風呂で使用するため「体に触れる場所をやわらかい素材で形成したい」という点。
これについては、樹脂加工メーカーとのタイアップにより解決の糸口が見えました。

最大の壁は2つ目の「お風呂を壊さない製品づくり」でした。
浴室には穴を空けて取り付けることができないため、基本は「置く」か「挟み込む」しかありません。
ただ置くでは不安定で危険が大きいので除外。
しかし、挟み込む仕様にした場合、固定のために浴槽をはさむ力を入れすぎると、お風呂そのものを破壊してしまう恐れがあったのです。

固定仕様の選択肢 発生するリスク・課題 採用可否と現場判断
穴あけ施工 賃貸住宅・在来/ユニットバスへの穴あけ加工は不可 不可(施工不可)
置くだけの設置 入浴時の体重移動で転倒・ズレが生じる重大事故リスク 除外(安全性欠如)
浴槽の挟み込み 締め付け力が弱いと外れ、強すぎると浴槽自体を破壊するリスク 理想論の提案から工場長が1週間で試作実現

頭を抱えた私は、半ば理想論のような「絵に描いた餅」のアイデアを提案しました。
すると、依頼先メーカーの工場長が、さらりと「それ、簡単に出来るよ」と発言したのです。
そしてなんと、わずか1週間でそのアイデアを形にした試作品を作り上げてしまいました。

まさに、私の描いた「絵に描いた餅」を、食べられる本物の「餅」にしてしまった瞬間でした。
この圧倒的なアイデアと実現力には、顧客側も私も驚愕するほかありませんでした。

そこからプロジェクトは全力で商品化へと向かい、結果として「業界初」の製品が完成しました。
その製品は、20年経った今でも年間2万台を出荷する大ベストセラーとなっています。
あの時の工場長がいなければ、こんなベストセラーは絶対に生まれませんでした。
今は亡くなられてしまいましたが、今でも困難な壁にぶつかるたびに「あの人が今もいてくれたらなぁ」と思い出す、偉大なプロフェッショナルです。

3. 受け身からのカウンター。驚愕の「営業・交渉の達人」

最後にご紹介するのは、私に「本物の営業の恐ろしさと奥深さ」を教えてくれた、驚愕の営業スタイルを持つ方です。

私はこれまで営業を主軸に会社勤めをしてきましたが、その大半は受託製品開発であり、純粋な物販における営業感覚がそれほど優れているとは思っていませんでした。
そんな折、またしても新製品開発に行き詰まり、これまで取引のなかった会社へアプローチしたのが出会いのきっかけです。

東京支社へ問い合わせると遠方にいる「キーマン」を紹介され、私は3時間かけて会いに行きました。
初対面の衝撃は今でも忘れられません。
これから仕事をするかもしれない私を見るなり、品定めをするかのような鋭い眼光。
しわがれた声に、皺の目立つ顔つき……あまりの迫力に、一瞬「もう帰ろうか」と思ったほどです。

せっかく来たのだからと開発、製造の受諾を必死に説明しました。
その会社は私たちのライバル企業の製品も製造しており、今回はかなり大きな取引になるはずでした。
しかし、彼は即答を避け、「回答は1週間後」と告げました。
今思えば、これこそが周到な営業的駆け引きでした。
翌週回答を求めると、「仕方なく引き受ける」という絶妙なニュアンスで受諾されたのです。
この時点で、私が「客(発注側)」であるという優位性は見事に削がれていました。

そこから頻繁な訪問が始まり、じっくり彼を観察する余裕が生まれると、そのスキルの全貌が見えてきました。
まず驚かされたのは「洞察力」です。
来客の際、訪問日時の設定、服装、荷物、靴の種類、挨拶の仕方などを瞬時に総合判断し、「来訪者の“本当の目的(本音)”はもっと別のところにある」という前提で、その場に投げる質問を選び出していました。

そして彼の真骨頂は、絶妙な「カウンター型」の交渉術でした。
打ち合わせでは相手の話をじっくり聞き、即答は絶対に避け、期間を設けて回答します。
実際には期日より少し前に連絡が来るのですが、そのほとんどが「条件付き」での受諾なのです。
まずは相手の要望を「受け取り」、そのうえで条件をつけて「カウンターで返す」。
この繰り返しの「間」が実に絶妙でした。

実はこの出会いによって、私自身のスタイルにも大きな変革が起きました。
それまでの私は「攻め」ばかりに集中した営業スタイルでしたが、彼からこの手法を学んだことで、大手企業との折衝力が格段に上がったのです。
開発担当者や購買担当者止まりだったお付き合いが、部長、事業部長、さらには役員クラスの方々とも対等に話ができるようになりました。
まさか、会社員人生の終盤に差し掛かってから、これほど大きな学びと成長があるとは考えてもみませんでした。

その方は現在、役員になられて現場にはほとんど顔を出されません。
しかし、たまに打ち合わせの場に入ってきた瞬間、自社の社員だけでなく、客である私たちの空気までもがピリッと引き締まる。
そんな圧倒的な存在感を持つ人は、そうそういません。

mindmap root(("3人のプロフェッショナル")) ("1. 開発のプロ") ["困難でも微笑む器量"] ["Try & Errorの最小化"] ["機能設計と泥臭い試験"] ("2. 驚異の工場長") ["「簡単に出来るよ」の即断"] ["絵に描いた餅を1週間で試作"] ["年間2万台ベストセラー化"] ("3. 交渉の達人") ["鋭い観察眼と本音の見極め"] ["受け身からのカウンター受諾"] ["役員クラスと対等な存在感"]