なぜ船の名前・Voyage番号だけでは迷子になるのか

船の名前は、実は変わることがある

まず、なぜ迷子になりやすいのか、順番に見ていきましょう。
船の名前は、ずっと同じままとは限りません。船が売られたり、登録している国(船籍)が変わったりすると、名前が変わることがあるのです。
だからこそ、国際海事機関(IMO)という団体は、名前が変わっても絶対に変わらない「一生ものの番号」として、IMO番号というものを作りました。海上保安庁の説明によれば、IMO番号は「海事上の安全、汚染防止、詐欺行為の防止を促進させるため、個々の船にその船の識別のため恒久の番号を指定したもの」で、船の国籍が変わっても、その船がなくなるまでずっと同じ番号のままです。
つまり、船の名前だけを頼りにしていると、同じ名前・似た名前の別の船と間違えてしまうことがある、ということです。

追跡サイトで名前を調べると、何隻も出てきてしまう

実際、大手の追跡サイト「MarineTraffic」で船の名前を検索窓に入れると、候補が何隻もリストで出てくる仕組みになっています。
つまり、名前で検索するというやり方は、そもそも「1隻だけにしぼりこむ」ためには作られていないのです。

Voyage番号は、そもそも「今どこにいるか」を調べる番号じゃない

「Voyage番号(航海番号)」にも、同じような落とし穴があります。
これは船会社が、スケジュールや予約を管理するために使う番号です。MarineTraffic・VesselFinder・Tradlinxといった主な追跡サイトには、そもそも「Voyage番号」を入れる欄自体がありません。
船会社の追跡ページで予約番号やB/L番号、コンテナ番号を入れれば、「荷物がどうなっているか」は確認できます。でもそれは、「船がいま地図上のどこにいるか」をリアルタイムに調べる仕組みとは、そもそも別のものなのです。

情報の種類ごとに、何のための番号かを整理すると、こうなります。

情報主な用途AIS系追跡サイトでの検索
船名船の呼称可能だが複数候補が出ることがある
Voyage番号船会社のスケジュール・ブッキング管理非対応(検索項目自体がない)
ブッキング番号・B/L番号・コンテナ番号船会社サイトでの貨物ステータス確認非対応(船会社サイト側で使用する番号)
MMSIAIS上で船を一意に識別する番号対応・一意に特定可能
IMO番号船の恒久的な識別番号対応・一意に特定可能
flowchart LR
  Q[船の位置を知りたい] --> N[船名・Voyage番号で検索]
  Q --> M[MMSI・IMO番号で検索]
  N --> X[候補が複数 or 検索非対応]
  M --> Y[1隻に一意に特定]

  classDef problem fill:#fef2f2,stroke:#ef4444,color:#991b1b;
  classDef goal fill:#ecfdf5,stroke:#16a34a,color:#166534;
  class X problem
  class Y goal
        

「MMSI」が位置特定の決め手になる理由

MMSIってどんな番号?

ここで登場するのが「MMSI(エムエムエスアイ)」です。正式には「Maritime Mobile Service Identity(海上移動業務識別コード)」といいます。
海上保安庁の説明によると、MMSIは「DSC通信装置を搭載した船舶・地上局に認識番号として交付される番号」です。9つの数字でできていて、最初の3つの数字が、その船がどの国に登録されているかを表しています。

船はずっと「自分はここにいます」と電波で発信している

このMMSI番号は、「AIS(船舶自動識別装置)」という装置が出す情報の中に入っています。
AISは「船舶の識別符号、船名、位置、針路、速力、目的地などの船舶情報をVHF帯電波で自動的に送受信し、船舶局相互間、船舶局と陸上局間で情報の交換を行うシステム」です。難しく聞こえますが、簡単に言うと「船が、自分の名前や番号、いまいる場所、進んでいる方向を、数秒おきに電波でずっと発信し続けている」ということです。

コンテナ船なら、ほぼ必ずMMSIを持っている

「うちが使っているコンテナ船は、ちゃんとAISを積んでいるの?」と心配になるかもしれませんが、基本的には大丈夫です。
SOLAS74条約(1974年の海上における人命の安全のための国際条約)という国際的なルールの第5章では、外国と行き来する300総トン以上の船には、AISを積むことが義務付けられています。日本国内のルール(船舶設備規定第146条の29)にも、同じような決まりがあります。
貿易で使われるようなコンテナ船は、ほぼ確実にこの対象に入っています。

つまり、船の名前やVoyage番号ではなく、「MMSI」(またはIMO番号)で追跡サイトを調べれば、他の船と間違えることなく、自分の荷物を積んだ船をピンポイントで地図の上に表示できる、というわけです。

海のど真ん中にいても大丈夫な理由

AISの電波は、陸にある受信アンテナだけでなく、人工衛星でも受け取られています(これを「衛星AIS」と呼びます)。
だから、陸から遠く離れた沖合を走っている船でも、リアルタイムに近い形で、追跡サイトの地図に位置が反映される仕組みになっています。

MMSIの調べ方

とはいえ、MMSI番号は、予約の確認書や船積書類には、たいてい直接書かれていません。実務では、次の手順で調べるのが確実です。

  • まず船の名前とVoyage番号を確認する(船会社の追跡ページや予約の確認書に書いてあります)
  • 追跡サイトで船の名前を検索する(MarineTraffic・VesselFinder・Tradlinxなど)
  • 候補が多いときは、船会社・船の種類・だいたいの航路で見比べて絞りこむ
  • 特定できたら、船の詳しいページに出ているMMSI・IMO番号をメモする
  • 次からは、メモした番号を入れれば、毎回迷わず1隻だけ表示される

一度番号さえ控えてしまえば、そのあとの確認はぐっと楽になります。

本船の位置をこまめに確認する実務上のメリット

MMSIで船を一つにしぼりこめるようになると、「いまどこにいるか」が分かるだけでなく、実務でもいいことがいろいろあります。

  • 入港予定の変化に早く気づける:ETA(到着予定日)が前後したとき、フォワーダーからの連絡を待たなくても、自分で状況を確認できます
  • 通関やトラックの手配タイミングを調整しやすくなる:入港予定の変化にあわせて、手配のタイミングを早めたり遅らせたりできます
  • 遅れの兆候に早めに気づける:置き場の無料保管期間(フリータイム)の管理という意味では、デマレージとディテンションの違いともつながってくる話です

MMSIにも弱点はある——IMO番号と一緒に使うのがおすすめ

MMSIは、実は変わることがある

ここまでMMSIの便利さを紹介してきましたが、正直に弱点も伝えておきます。
MMSI番号は、最初の3つの数字が「その船がどの国に登録されているか」を表す番号である以上、船が売られたり、登録国(船籍)が変わったりすると、番号自体が変わることがあります。

IMO番号は、一生変わらない背番号

その点、IMO番号は、海上保安庁の説明の通り「船舶の国籍が変わっても、廃船になるまでこの番号は変わらない」一生ものの番号です。
だから、1回の航海だけを追いかけたいならMMSIで十分ですが、同じ船をずっと記録・管理したい場合や、長く付き合いのある取引として記録に残したい場合は、MMSIと一緒にIMO番号も控えておくと安心です。追跡サイトの船の詳しいページには、たいてい両方の番号が載っています。

電波にも限界がある

また、AIS信号は電波でやりとりする仕組みなので、機械の調子や電波の状況によって、ごく短い時間だけ、位置情報が更新されないこともあります。
地図の上の表示は、あくまで「直前に受信できた電波」をもとにしている、ということも、頭のすみに置いておくとよいでしょう。

よくある質問

Q. 追跡サイトは無料で使えますか?
MarineTraffic・VesselFinderなどの主な追跡サイトは、船の位置確認といった基本的な機能を、無料で使えるようになっています。もっと詳しい航海の履歴や、こみいった分析機能は、有料プランで使えるのが一般的です。

Q. 船会社の追跡ページと何がちがうのですか?
船会社の追跡ページは、予約番号やB/L番号を使って「自分の荷物」がどうなっているか(通関中、搬入済みなど)を確認する仕組みです。一方、MMSI・IMO番号を使う追跡サイトは、AISの電波をもとに「船そのもの」がいまどこにいるかを地図の上にリアルタイムで表示する仕組みです。確認できることが違うので、両方使い分けると、状況をより立体的につかめます。